西山の自然はみんなの宝。仲間と一緒に未来へ繋ぎたいです。
牧野義文さん(西山ふるさと公園管理協力会 会長)
ハッチョウトンボ、ヒメサユリやカタクリ、そして夏の夜空にきらめくホタルといった希少な動植物が数多く生息する西山ふるさと公園。地元にある自然環境を次世代に残すため、牧野さんは里山の管理からその啓蒙活動までさまざまなことに努められています。
環境保全活動にはどのように携われてきたのでしょうか。
私が住む西山地区では、地域の敬愛する諸先輩方が、昔から西山ふるさと公園を中心に里山の環境保全を行ってきました。その結果、市街地に隣接しながら、県の準絶滅危惧種をはじめとした希少な動植物を身近に感じられる場所へと育っています。西山はみんなで守り、次代に残すべき「宝」であるという認識が根付いていますね。私自身は、12年前に西山の地区会長になってから保全活動に携わるようになりました。会社勤めをしながらの活動だったこともあり、当初は役職があるから仕方なくといった姿勢でした。プライベートでも山に入ることなどなかったですから。 しかし、草刈りなどの作業中にふるさと公園を訪れる方々から感謝の言葉をいただくなかで、次第に心境が変化していきました。スイッチが入ったと言いますか、この里山の環境を守ることが私の使命であると感じ、私のセカンドライフになったのです。
里山にはさまざまな動植物が生息していますが、中でもホタルを見せた時の子どもたちの反応は格別でしたね。現代では、里山の環境は人の手が入ってこそ守られ、未来に残すことができるもの。その為には次代を生きる子どもたちが主役になりますから、夜空にきらめくホタルの美しさを入り口として、自然の素晴らしさ、希少な種を守ることの大切さを伝えていこうと思っています。
西山ふるさと公園管理協力会では西山地区会と一緒になり、ホタルが陸に上がる前や、産卵のため川に戻る前のタイミングに合わせて草刈りや河川清掃などを計画しています。その甲斐もあって、今では視界に20匹ほどのホタルが飛び交うようになりました。「西山ほたる祭り」が夏の風物詩として親しまれるようになり、みんなの喜ぶ姿を見ながら私は夢を持ちました。〝こんなにも美しいホタルたちを、市街地を流れる荒町川まで飛ぶようしたい〟と。
素敵な夢ですね。しかし、厳しいチャレンジだったのではないですか。
平成25年、26年に起きた豪雨災害の影響で土壌が被害を受け、ホタルの生息数が激減してしまいました。行政による河川整備などもあったことで、数年かけて徐々にホタルは戻ってきましたが、次に待っていたのはコロナ禍。「西山ほたる祭り」も例外ではなく、他の催しと同じように中止を余儀なくされました。そのことによって私が恐れたのは、西山の自然に対する地域の意識の衰えです。地域住民の高齢化による後継者不足という課題はありましたが、このままでは長年続けてきた保全活動も一気に途絶えてしまうかもしれないと、辛い気持ちになっていました。
しかし、コロナ禍が落ち着きはじめると、企業からの保全活動への協力の申し出や地元小学校からの里山見学のお願いなどが続々得られるようになりました。嬉しくて仕方なかったですよ。この西山地区に、新しい風が吹き込み始めたと感じましたね。
新しいパートナーたちがもたらす変化はどのようなものでしょうか。
西山地区の里山は、上山市が健康保養地づくりを目指して進める「上山型温泉クアオルト事業」の一環として、健康ウォーキングのコースに認定されています。その取組に賛同している「太陽生命保険株式会社」さんと上山市が「里山づくりパートナー協定」を締結したことは、これからの環境保全や啓蒙活動の大きな力になると思います。また、「NPO法人かみのやまランドバンク」さんが協力してくれている学生ボランティアは、遠く九州からも興味関心を持って手伝いに来てくれます。人数は少ないですが、いわゆる関係人口は増えていますので今後も期待しています。
本当に幸運ですよ。決して一人でできることではありませんからね。仲間に恵まれ、その仲間たちと一緒に西山の自然を守っていけば、子どもたちをはじめ多くのみなさんに西山の素晴らしさをもっと知っていただくことができ、もっと好きになってくれるはずです。
あらためて、かみのやまに思うことをお伝えください。
幼い頃、私は市内の湯町という温泉街に住んでいました。夏の夜には、旅館への宿泊客や芸者さんのカラコロという下駄の音を聞き、川沿いへ足を伸ばしてはホタルが飛び交う光景を姉とあたりまえに眺めていたものです。そういった原風景は、ふるさとを愛する要素の一つですし、子どもたちの心と身体の成長に必要なものだと思うのです。
多くの仲間と活動する現在、私にとってホタルを街なかに連れてくる夢は〝目標〟に変わりました。それが実現できたら、かつての風景が再現されるばかりでなく、古くも新たな魅力としてこのまちを照らすことにつながると思っています。 何気ない日常にあるあたりまえのもの、ありふれたものにあらためて注目することに、まちを興す可能性が秘められています。かみのやまは、果樹や温泉、ワインなど、さまざまな観光資源に恵まれている。中でも、みんながあたりまえと思っている里山の環境や地元の人々の人情こそが、このまちを特別なものにしている。最近は、若い世代の方々が市内に個性的なお店をどんどんオープンさせていますが、それはとても良い兆候ですよね。きっとこのまちは、心地よい加速を持ってもっともっと前進していくでしょう。