精一杯、自分の人生を楽しむ。その先で、地域を盛り上げられたら最高です。

#005

IMAGINE-今人-

Share !

精一杯、自分の人生を楽しむ。その先で、地域を盛り上げられたら最高です。

齋藤千里さん(まんまる果樹園)

かつて羽州街道沿いの宿場町として栄えた楢下宿。趣のある石橋や茅葺屋根の古民家など、当時の面影を遺すこの地域に、酪農家の長女として生まれた齋藤さん。長く、介護福祉士として働いていましたが、先に果樹農家の道に進んだ夫を手伝うかたちで、5年前に就農しました。「やまがた農業女子ネットワーク(あぐっと~agood~)」にも設立当初から参加し、農業者として成長を続けながら、さまざまなことに挑戦しています。

なぜ果樹農家として就農したのでしょう。

生まれ故郷の楢下宿は、酪農が盛んな地域でした。私の家でも祖父の代から酪農をはじめ、両親もその仕事を継いでいました。しかし、三姉妹で生まれた私たちに、両親は家業を継ぐことは強制しませんでした。老後は果物を作りながらゆったり暮らそうと考え、果樹農家に転身したそうです。姉妹の中に農家を継ぐ者はいませんでしたが、私の夫が15年程前に農業をはじめ、桃とスモモの果樹農家になりました。私はと言えば、社会人になってからはずっと介護福祉士として働き、農業をするつもりはありませんでした。しかし、桃、スモモが安定して収穫ができるようになり、同時に父の怪我が重なったこともあって、家族の力になれるならと就農することにしたのです。農家に生まれたものの、知識も経験もありません。普段は前向きな性格なのですが、その時ばかりは少し不安を感じました。

ターニングポイントになったことはありますか。

農業で困ったときに相談できるからと、夫が上山市の農林夢づくり課を紹介してくれました。市役所職員の方からのアドバイスは、私の農業を続けるうえでの大きな転機に繋がったと思っています。その一つは、デザイナーと事業者をマッチングする、山形県主催で行われた「デザ縁」という事業。日頃から、もっとお客様に親しんでもらえる果樹園にしたいと思っていたのですが、この事業で出会ったデザイナーさんの力を借りて、イメージを一新することができたのです。屋号である「まんまる果樹園」には、育てている果実のかたちに丸いものが多いこと、その丸い果実を食べたお客様に、〝まんまる笑顔〟になって欲しいという思いを込めました。穏やかな印象の屋号とロゴデザインに、夫も私もとても愛着があります。

もう一つは、私が就農した翌年に設立された「やまがた農業女子ネットワーク(あぐっと~agood~)」を紹介してもらったこと。農林水産省が推進する「農業女子プロジェクト」の山形県在住メンバーが中心となり立ち上げられた団体で、自らの経営発展や女性農業者の存在感向上などを目的とするものでした。いざ設立の式典に行ってみると、会場内には、農業に携わり輝いている大勢の女性の姿があり、私はその光景に圧倒されてしまいました。「あぐっと」への参加は私の農業のイメージを180度変え、プラスの方向に向かせてくれたのです。成功、そして失敗の事例も、経営面での踏み入ったことも真剣に話し合える仲間ができましたし、女性視点での様々な研修会が組まれていることも魅力です。このような団体への関わりができたことは、私にとって農業を続けていくための原動力にもなっています。

農業をはじめて、何か感じたことはありますか。

実際に働いて分かったのは、市場に出ることも無く廃棄される果実、つまりは見えないフードロスの多さです。傷や熟れ過ぎ、サビなどで商品価値が無くなってしまった果実は、味は良くても廃棄される場合が多い。私たちの果樹園でもかなりの量のフードロスが起こっている。そのような理由もあって、ゼリーなどの加工品にする六次産業化にも少しずつ取り組んでいます。簡単に採算が取れるわけではありませんが、加工品のひとつの利点として、生食用の果実と比べて提供期間が長いため、私たち夫婦で作った果実の味わいを知ってもらうための手段に考えています。

また、「あぐっと」の活動や農業をしていく中で、関心を持ち始めたことがあります。それは、将来起こりうる危機や農業の担い手不足についてです。あるテレビ番組を視たとき、様々な要因から野菜の価格が高騰し、普段から食べているものが手に入りにくくなってしまうのではないか、という内容に衝撃を受けました。そのような未来にしないためにも、今からできることをとにかくやりたいと考えるようになったのです。
そこで出会ったのが、絵本の読み聞かせを通して、子どもたちに農業の楽しさや大切さを伝える「AGURI BATON PROJECT」でした。市内外の児童福祉施設や公共施設などで読み聞かせをさせていただいていますが、もっと多くの子どもたちに参加してもらえるように、PRにもより力を入れ、定期的な開催を予定しています。以前は自園の経営のことしか見ていませんでしたが、将来に農業の担い手を失ってはならない、日本の農業の未来を考えることの大切さを切に感じています。

あらためて、かみのやまに思うことをお伝えください。

私は農業をはじめてまだ5年ですし、まちのために何かできる力を持っているとは思えません。でも、このまちが大好きという気持ちがあります。まずは、かみのやまの果実が美味しいということを、広く伝えるお手伝いができればと考えています。そして、生まれ故郷の楢下宿を、盛り上げていきたいですね。
かみのやまには、たくさんの魅力が詰まっています。いろいろな機会を通じて盛り上げようと頑張っている人もたくさんいるので、そんなみなさんと協力できることがあるならばどんな小さなことでもやりたいです。
私は、人生をできるだけ楽しみたい。自分自身が楽しみながらまちを盛り上げようとしていれば、きっとその輪はどんどん大きくなっていくはずです。

PageTop