このまちの歴史や文化の大ファン。次世代に継ぐまで研究し続けることがライフワークです。

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IMAGINE-今人-

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このまちの歴史や文化の大ファン。次世代に継ぐまで研究し続けることがライフワークです。

長南伸治さん(上山城学芸員)

子どもの頃から歴史好きだった長南さん。その思いを持ったまま大人になった時、直面したのは歴史を仕事にすることの難しさでした。さまざまな業種を経験した後、夢をあきらめずに11年前に学芸員として入職したのが、上山城郷土資料館。はじめこそ何も知らないまちでしたが、今では不思議なほど昔の名残を残すかみのやまの虜となり、日々館内の研究室で、古文書や歴史資料の分析に励んでいます。

どのようにして学芸員の仕事に就いたのですか。

私は子どもの頃から、とにかく歴史が大好きでした。しかし、就職を考える時期になると、歴史に携わる仕事をするには、想像以上に選択肢が少ないことに気づいたのです。一時期は教師を目指すものの、20年程前は教師の数は全国で飽和していて、ましてや日本史の教師となると、採用はほぼありませんでした。そんな時に見つけたのが学芸員の仕事。こちらも同じく狭き門でしたが、かけてみることにしました。当時、東京にいた私はそれから何年もの間、資料館のアルバイトや非常勤講師などでなんとか生計を立てながら機会を伺っていましたが、11年前に上山城でようやく学芸員の募集があったのです。庄内生まれの私は、このまちを訪れたことは過去1度くらいしかありません。でも、山形に戻りたいという思いもあり応募し、32歳の時にやっと学芸員として働きはじめました。学芸員の仕事は歴史資料などの研究と管理、また展示にまつわることから企画展や講座の開催までと多岐に渡りますが、歴史に携わる仕事ができている今に、とても満足しています。

学芸員になった当時、かみのやまの歴史について知っていたのでしょうか。

はじめは、よく知らないまちという状態からのスタートでした。しかし、学芸員としては興味深いことが立て続けに起きて。と言うのも、前任者が収集してきた山積みの歴史資料の中から、かみのやまの偉人が書いた手紙を見つけたのです。それは耐震構造学の祖として関東大震災の復興にも携わった建築家・佐野利器氏のものだったのですが、かなりの歴史的価値がある発見でした。そして、学芸員の視点であらためてかみのやまのまちを見ると、今度は上山城周辺の道が、江戸初期からほぼ同じだと判明したのです。これは凄いことです。古文書などで誰かがかみのやまのどこに行ったかを書いていると、市内のどこにあたるかが現代でも場所を簡単に特定できてしまう。他の地域では聞いたこともないケースで、かなり衝撃的でした。市民のみなさんにとって当たり前のことなのか、私が他地域出身だから気にしているだけなのか分かりませんが、「このまち、なんか面白いぞ」ってじわじわと。無論それからは、前にも増して地域の歴史を調べるようになりました。

長南さんは、展示にもかなりこだわりを持っていると聞きました。

展示物にはそれが何なのかを示す説明文が添えられています。その原稿を作成するのも私たち学芸員の仕事の一つですが、内容が学術的になりやすく、歴史や文化に詳しい人でない限り分かりにくくなってしまいがちです。入職した際、上山城内という立地上、来館者には観光客や子ども連れが多く、歴史に興味がある人ばかりではないと聞きましたので、私は館内全ての説明文を見直すことにしました。イラストを加え、漢字には全てルビを振り、内容も人によっては、「噛み砕きすぎだよ!」とツッコミが入りそうなくらい分かりやすい表現に変えました。今のところはクレームも無く、むしろ子どもがきちんと最後まで読んでいたなど、嬉しい感想が寄せられています。他に夏の恒例イベントとなった上山城ナイトミュージアムなどさまざまな企画を実施していますが、市民の方のボランティアが手厚く、一緒になって盛り上がれるのでしみじみといいまちだなと思います。また、「上山城でこんなことやっているんだ」など、好意的に感じてくれる方が多いことは大変光栄です。

このまちで学芸員になったことで、ご自身に変化はありましたか。

最初こそ、もっと歴史的な大発見がしたいという野望を持っていましたが、実際に研究してみると、このまちの歴史はかなり面白いし、一朝一夕でやれるような軽いものではありませんでした。変化があったとするならば、私自身がかみのやまの文化や歴史の大ファンですし、今はここで学芸員としての人生を全うしてもいいと思っています。以前、結構まぬけな武士のライフスタイルが古文書に書かれているのを見つけたので、かみのやまの武士はどんな暮らしをしていた?という展示をしたら、思いのほか受けが良くて。これまで表に出てこなかったのは、単に注目されていなかったからで、小さくても歴史的事実を見つけてお伝えすることで、興味を持ってくれる人もいるはずです。収集と研究、そして整理。私ができることは全てやり切って、100年、200年のスパンで、次世代に引き継ぎたいと考えています。それは私のライフワークであり、やり切らないといけないと言う使命感さえ抱いています。

あらためて、かみのやまに思うことをお伝えください。

私にとって、あらためて歴史の面白さを再認識させてくれた場所です。まち全体が生きる歴史のようで、そこに延々と息づく文化へ興味を抱かせてくれます。また幸いにもかみのやまには、逆に私が教わりたいほどまちの歴史に情熱を持っている方がたくさんいらっしゃいます。願いとしては、今後も歴史資料の保存と展示、まちなみの保存をしてくれる、まちの歴史に誇りを持って生きてくれる人が、未来永劫つながっていけば嬉しいです。かみのやまは、面白い。私はこの思いを胸に、これからも学芸員としてまちの歴史を掘り下げていきたいです。最後に、ご自宅に歴史資料をお持ちの方がいたら、ぜひ連絡していただきたいです。もしかしたらそれは、新たな歴史を知ることにつながるかも知れませんから。

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