文房具が持つ力を信じて。かみのやまファンを増やしたい。
土屋稚さん(おかげさま文房具店)
文房具好きが高じて、生まれ故郷のかみのやまに文房具店を開いた土屋さん。実際に使用して、気に入ったものだけを店に置く、つまり好きなものだけを取り扱うというスタンスが、多くの文房具マニアの共感を呼び、間も無くして全国からファンが集まるお店になりました。そして、「文房具を通して、かみのやまのことを知ってもらいたい」と話し、この街でおもしろい化学反応を起こそうとしています。
いつから文房具が好きになったのでしょう。
もともと、可愛いものは好きでした。でも、小学校の頃にクラスでファンシーなものが流行っていた時、私がハマったのはペンケースでした。それはお小遣いの全てを注ぎ込むほどで、週1ペースで買い足しては、いっとき100個以上を持っていました。何が私を惹きつけたのか? それはペンケースの中に作る世界観で、例えば可愛いペンケースの中には、可愛い文房具を入れたいし、クールなものならやっぱりクール系で揃えたい。そんな超個人的なペンケースの世界観を考えることが、とても楽しかったのです。あまり意識はしていませんでしたが、その頃から私はすでに文房具の虜だったのでしょう。
その頃からずっと文房具の道を進まれたのでしょうか。
一度も途切れることなく、ずっとです。身近に価値観を共有できる人こそいませんでしたが、高校に上がった頃から文房具を取り扱う雑誌が急に増えはじめ、同時期にSNSも流行りはじめましたが、同じ匂いがする人を探しては友達申請をして、世の中には私以上のマニアがごろごろといることを知り世界が一気に広がったような気がしていました。社会に出てからは介護福祉士として働いていましたが、新たな資格を目指す時には、文房具は欠かせない存在になっていて。お気に入りを使うだけでテンションが上がるので、勉強がものすごくはかどったのです。きっと、何かを好きである気持ちは、想像以上に強い力を発揮できる原動力なのかも知れませんね。
文房具店のオープンは必然的なことだったのですね。
結婚と出産を経て2年ほど専業主婦をしていた時、次も好きなことを仕事にしようと思いました。子育て中に、山形文房具会というグループを立ち上げていたのですが、その経験から県内にも文房具好きな方がいると分かっていたし、私はできるかできないかでは無く、やりたいかやりたくないかを判断基準にしているので、物販も接客業も未経験でしたが、まずは動き出しました。祖父の作業場だった小屋を改装し、店舗にする予定にしていたのですが、座敷童でもいるのかなと思うほどにこの小屋は人を引き寄せてくれて。大工さんもデザイナーさんも、問屋さんも他の業者さんも、嘘のようにどんどん繋がり、思いついてから約半年後の2020年12月に「おかげさま文房具店」をオープンすることができました。
かみのやまPRにも力を入れてらっしゃるとか。
生まれも育ちもかみのやまで、離れたいと思ったことも無いのですが、それって私が「かみのやまを好き」という証拠だから、文房具を通してこのまちをもっと多くの人に知ってもらいたいと考えたのです。今はインクが多いのですが、コラボすることによる相乗効果っておもしろいですね。全国的に有名なタケダワイナリーさんのワインの色をしたインクを作れば、文房具好きな方とワイン好きな方の双方向に情報発信ができますから。きっと中にはこのインクがきっかけでかみのやまを初めて知ったという人もいるはずです。それから年に2回のものや月に1回のものなど、イベントを定期的に主催しているのですが、それもこのまちでやることに意味があると思っていて。かみのやまの空気感とかおもしろさを感じてもらいたい気持ちでやっています。過去のイベントでは、2日間の開催で来客数が1000人を超えたことも。県外からも結構来てくれていたみたいですよ。
土屋さん自身が、街の魅力を繋いでくれているのでは。
それは分かりませんが、この街には紹介しないのが勿体無いくらいの良い人や良いものがたくさんあって。私は今、地元の企業や店舗さんとのコラボに力を入れているのですが、文房具の変態である私と、同じくそれぞれの分野に全身全霊でのめり込むくらいの愛がある人=良い意味での変態と呼べる人との仕事がどんどん決まっていきます(笑)。現時点での私の結論としては、文房具はただ単に使うもの以上に、人と人を繋ぐ存在なのです。その意味では、知らないうちにかみのやまの魅力を繋いでいるのかも知れません。私自身としては文房具という視点でこのまちを見つめ直し、おもしろいものを見つけたら販路開拓から営業代行まで、何でもやりたいなと思っています。
あらためて、かみのやまに思うことをお伝えください。
かみのやまは、私が好きなまちです。そして私は、好きなものを好きだと伝えるのが大好きで、だからこその説得力もあるし、共感も生まれると思うのです。全ては愛で、その愛を文房具に乗せていろんな人の手元に届けたいです。実は、非公式でかみのやま観光大使をやっていますから、勝手にかみのやまの魅力をどんどん外に伝えていきたいです。私って今しか見て無くて。今が幸せなら、この先の未来も連続して楽しいべって信じていますが、そんな風に思い行動してくれる人が増えたなら、このまちではもっとおもしろい化学反応が起きるはず。みんなで一緒に手を取り合って、やっていきたいですね。