音楽と生き、音楽でしかできないことを続けたい。

#011

IMAGINE-今人-

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音楽と生き、音楽でしかできないことを続けたい。

伊藤 萌(Megumi Ito/音楽家・作曲家・トランペット奏者

演奏家・作曲家・表現者として、かみのやまから全国に活動を広げる伊藤 萌(めぐみ)さん。東日本大震災や、異国の地での経験、そして、地域やそこに住むみなさんとの関わりを日々重ねながら、トランペットを手に音楽が生み出す新たな価値を見出し続けています。

音楽で生きていく。いつ頃からそう思うようになったのですか。

音楽との最初の出会いは、ピアノを習いはじめた4歳で、物心がついた頃にはすでに音楽が日常となっていましたね。より音楽に魅かれたのは、中学校の吹奏楽部で出会ったトランペットがきっかけ。音を出した瞬間、胸を打つような初めての感覚があって、「これを続けていきたい」と感じたことを鮮明に覚えています。

さらに、当時公開された映画『スター・ウォーズ エピソード1』で音楽を担当したジョン・ウィリアムズの楽曲に感銘を受けたことや、音楽を通じて世界と対話をしているような坂本龍一さんの姿を見て、「作曲」に強く関心を持つようになりました。私もいつか、私の想いや考えを音にしてみたい。そのような夢を胸に、山形北高等学校音楽科、愛知県立芸術大学へ進学し、音楽を学んできました。

大学卒業後は、かみのやまに帰ってくるかとても悩みました。地元で音楽の仕事にどれだけ携わることができるのか、現実が全く見えなかったからですが、自分のことをよく知っているのは私自身。あれこれ考えるのを止め、かみのやまでフリーランスとして音楽活動を始めようと思い切って決意しました。

でも、始めてから数年は本当に苦労の連続で、演奏の場は少なく収入も不安定。自分の音楽が社会のなかでどのような意味を持てるのか、答えが出せずに「音楽ってなんだろう? 」と、自問自答を繰り返していましたね

転機になるようなことはあったのでしょうか

振り返れば、東日本大震災がターニングポイントだったかもしれません。

当時、私もあの大きな喪失感のなかにいました。多くの命と日常が失われ、音楽があまりにも無力に思えた日々。それでも、避難してこられた方々の前で演奏する機会があったことは、忘れることのできない大切な記憶です。

ある日の演奏後、ひとりのお婆さんが近づいてきて、「あなたの演奏を聴くことができて良かった。元気になれたよ」と声をかけてくださいました。私の手では、直接命を救うことはできないかもしれない。でも、手を差し伸べるようにそっと寄り添うことができる。私はそこではじめて、音楽でしかできないことがあると気づきました。わずかであっても、誰かの心をあたたかく包み込むことができるのなら、私は音楽を続けていきたい。音楽とともに生きていきたい。そう思えたのです。

2013年、私は青年海外協力隊の制度を利用し、教育機関で生徒や教員を対象に楽器の演奏や歌の指導を行う「音楽指導員」としてカンボジアで活動を始めます。

当時、旧政権の影響が未だ色濃く残る同国では、情操教育、特に音楽に関する基盤が整っておらず、楽譜は読めないのが当たり前で、楽器を演奏することは極めて困難でした。それでも、子どもたちが音に触れた際に見せるまなざしは、気持ちが良いほど真っ直ぐで、文化や言語の隔たりを超えて心が通い合う瞬間が何度もありました。私にとって同国で過ごした2年間は、音楽が持つ可能性を再認識する機会となったのです。

また、高校時代に出会ったジャズ・トランペット奏者の日野皓正さんと、カンボジアで偶然再会したことも印象的でした。やがて山形での共演というかたちで結実したこの経験は、行動することの大切さ、そして地域を大切にすることの意味を私に教えてくれたと思っています。

それらの経験はその後の動きにどんな影響を与えたのでしょうか。

「音楽とどのように生きていくか」という考えを深めるきっかけになりましたね。以前は、演奏することが音楽のすべてだと思っていた私でしたが、次第に「誰かの感情や時間に寄り添うことで初めて意味を持つ」側面に魅力を感じていきました。

カンボジアから帰国後は演奏の幅を広げ、仲間たちと立ち上げたアンサンブル「daccha(だっちゃ)」の活動や、ソロリサイタルにも挑戦しました。しばらくして、コロナ禍となり音楽活動が縮小していたとき、私は、自分が音楽に惹かれはじめた頃に興味を抱いた「作曲」に取り組みはじめたのです。最初は戸惑いながらでしたが、自分の内にある一つひとつの音を紡いで表現していきました。これまでの経験もあって、映画音楽の制作に携わることも叶いました。

この10年の間、私にとって音楽との向き合い方は少しずつ変化してきました。「演奏する」ことを音楽の全てだと捉えていましたが、今では「誰かと一緒に育てていくもの」へと変わってきたように感じています。音楽と人、音楽と教育、音楽と地域―。音楽とその他の〝何か〟を結びつけることで、まだまだ自分の知らない世界が広がっていく。そう思うと、これからが私の本当の音楽活動が始まるような気がしています。

らためて、伊藤さんにとってのかみのやまとは

私にとって、いつでも「ただいま」と言える家のようですね。悩んだとき、立ち止まったとき、いつもここで誰かと出会い、音を奏でることで、ふっと自分自身を取り戻せています。

最初から音楽で生きていこうと思っていたわけではありません。でも、このまちの人たちが心の支えになってくれて、気がつけば私は、いつも音楽のそばにいました。演奏を聴いてくれたみなさんの笑顔や、いただいたあたたかい言葉たちが「またがんばろう」と背中を押してくれる。その積み重ねが、今の私を形づくっています。

恩返しということではありませんが、誰かの気持ちが少しでも軽くなったり、ほっとしたり。かみのやまをそんなふうに感じてもらえる場所にできたら、嬉しいですね。

▽伊藤 萌 /WEBSITEhttps://trumpetmegu.amebaownd.com/  Official YouTube …https://www.youtube.com/@artistmegudon
 

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