温泉はかみのやまにとって血液。それを守ることは私達の使命。

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温泉はかみのやまにとって血液。それを守ることは私達の使命。

鈴木実さん、高橋信行さん、工藤志保さん(上山温泉利用協同組合) 

街に立ち並ぶ旅館には、日々多くの観光客が宿泊し、また市内4箇所の共同浴場では、足繁く通う常連の姿が見受けられる。温泉は、地域の観光資源として、同時に市民生活の一部として、欠かすことのできません。そんな市民の宝を、24時間365日体制で見守るのが温泉利用協同組合。縁の下の力持ちのような存在です。 

温泉利用組合の設立について教えてください。

鈴木/温泉という資源を守るために組合が設立されたのは、国内旅行ブームの真只中にあった昭和50年代初頭です。それ以前は、各旅館で源泉を掘るのが慣わしでしたが、どれほどお金を掛けられるかという資本力によって湯量や水温に大きな差が出てしまっていたそうです。そこで、地域資源を平等に分かち合うために考えられたのが組合でした。 

当時の日本はバブル時代。旅館の大型化が進んだことで、同じ湯脈上にある小規模旅館の湯量が低下する懸念も背景にあったのでしょう。思うに組合化は、地域産業を育て持続していくための、当時としてはかなり大胆なシフトチェンジだったのです。 

どんな仕事をされているのでしょうか。

鈴木/各旅館へと続く配管の補修、そして源泉の管理が一番の仕事です。他温泉にまつわる相談も業務のひとつで、内容は多岐に渡っています。また市内には、葉山地区と上山地区を合わせて5つの源泉がありますが、それら一つひとつの水位や平均温度、成分や伝導率などを事細かに記録するのも私達の大事な仕事で、源泉の維持は全てデータによって担保されているのです。大きなバルブを回すなどの作業を想像される方もいるかも知れませんが、むしろその逆。今はコンピューターでの制御など、理系的な作業が多いですね。 

高橋/地中の水分量は、通年で一定しているわけでは無く、夏季は雨の影響で水分が増し、逆に冬は積雪が多いものの、浸透が少ないので水分は低下します。それは源泉の水位に、如実に影響するのです。もし異常値が出たならば報告しみんなで共有しますが、自然を相手に人間が敵わないのも事実。そのため、創立時から続くデータ採集は、もしもの場合の対応策を考える上でも、私達にとって大事な仕事の一つになっています。正直、季節によってお湯の状況が変わるなんて、ここで働かなかったら知らなかったです。 

仕事で大変な事はありますか?

高橋/普段は異常値が計測されると、職員の携帯電話に通知が来るようにしています。しかし、何らかのエラーで通知が来ない時もあるので、そういう時は焦りますね(笑)。でも基本的に配管は2年に一回点検し、異常があれば交換しています。その時は人間のバイパス手術のように予備源泉を使い、各旅館には普段通りにお湯が送られるようにしながら進めます。組合の創立からもう少しで50年になりますので、配管全てを入れ替える計画が現在進行しています。その時も計画的に予備源泉を使用して、みなさんの温泉利用を止める事はないので安心してください。 

仕事のやりがいについてお伝えください。

鈴木/結局、配管は地中奥深くに埋まっているので、開けてみないとわからないことが多々あります。今年も3ヶ月掛かった修理もありましたが、難産なほど直った時はやりがいを感じます。 

高橋/何も問題が起こらないのが一番です。でも、配管の故障は必ず起きるものですから、それにきちんと対応して、最後にお湯が通った時の感動はやはり、何にも変え難いものがあります。温泉はかみのやまという地域の血液のようなものですから、これからもその主治医という気持ちで見守らせていただきたいです。 

改めて、かみのやまに思うことをお伝えください。

高橋/私はかみのやま生まれですから、かみのやまの温泉が大好きです。幼い頃から地域を見てきて感じるのは、やはりバブル崩壊や新型コロナウイルス感染症の流行なども影響し、旅館や共同浴場の数が減ってきて来ていること。地域の産業であり、宝である「温泉」に関わる立場として、源泉をしっかり見守りながら今ある施設を応援したいですし、利用客も増えてもらいたいという気持ちがあります。 

鈴木/私は共同浴場が好きで、頻繁に利用しています。聞けば共同浴場をお風呂として使い、ご自宅には浴室が無いという家屋も市内にはたくさんあるそうで、そんなところからも市民にとっては温泉が本当に生活の一部になっているのだと感じます。地域の文化として築かれてきたということですから、他地域出身の私にはとても感慨深く、同時にこの文化を後世に残したいという強い思いに駆られてしまいます。組合に勤めて早23年が経ち、私にも引退の日の訪れが少しずつ見えて来ました。その日が来る前に、高橋をはじめ後輩達が、より温泉を管理しやすい環境を整えたいと考えています。かみのやまは果樹も観光も、そして住んでいる皆さんの人柄もいい街です。これからもかみのやまの発展に貢献できるよう、私達もそんな街の象徴でもある温泉を守っていきたいです。 

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